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春の夜の夢

2010.04.10*Sat*
こういうのを散文というのでしょうか。

桜並木を運転中、
フロントガラスいっぱいに吹き付けてきた桜吹雪を見て、思いつきました。


よろしければ、↓"続きを読む"  からご覧ください。
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    『春の夜の夢』
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夢を見た。

どんな夢だったかは覚えていない。
でも、夢だとわかっていながら、覚めて欲しいと願いながら、
俺はその夢の中にいた。

夢なのに。
夢だからこそ、自分の望む状況にできるはずなのに、
気がつくと、更に追い込まれていく自分がいる。

声が出ない。
それでも、何かを叫ぼうとして、そこで目が覚めた。

何を叫ぼうとしたのか。
なぜそこまで自分が追い詰められたのか。
そんな具体的な内容はまるで覚えていない。
残っているのは、
体中に重石を載せられた後のような疲弊感と、
胸締めつけられるような絶望感。
そして、新たに訪れたのは、
それが夢であったことへの安堵感。

小さく息を吐く。

「…高耶さん?」

ひんやりとした感触が、俺の頬に触れる。
その長い指先が頬を眦を、口元をなぞる心地よさに、
ようやく強張りかけていた俺の体がほぐれていく。

「怖い夢でも見てたの?」

…思い出した。

夢で叫ぼうとしたのは、この男の名前だった。

夢の中。

いたのは、俺とこの男だけ。
手を伸ばしても届かない場所にこの男は立っていた。
俺が近づこうとすれば、同じだけ距離が離れた。
そして、
風が吹きつけてきた。
淡紅色の桜の花びらが視界いっぱいに広がる。
桜が男の姿を隠していく。

そして、俺は叫ぼうとした。

連れて行かないでくれ、と。
その男を自分の元へ帰してくれ、と。
男の名前を呼びながら。

「大丈夫、ここにいますよ。」

夢の内容をひとつも語っていないのに、
まるで見通したかのように、優しく諭すような声。

あぁ、そうだ。
お前はここにいる。
いてくれる。

枕代わりに俺の頭の下に差しのべられた腕。
押しつけた耳元に伝わる規則正しい鼓動。
顔の輪郭から、耳の後ろの髪を撫でる動きに変わった大きな手指。
どれも、確かに今俺を包んでくれるものばかり。
俺の為に、俺だけの為にあるのだと、
お前は、さも当たり前のように言ってくれる。

「…高耶さん?」

何も応えない俺が、さすがに気になったのか、
問うような声になった。

「なんでもない。」

くん、と鼻先で男の匂いをかぐようにして、
もう一度、深くその胸元に抱かれる。

夢は、
己への戒めが具現化したものだったのかもしれない。
この幸福をかけがえのないものだと、
当たり前なんかじゃなく、
お前が、ここにいることを選んでくれたからこそある幸福。
俺だけが求めたのではなく、
お前も求めてくれたからこそ、二人こうして「ある」幸福。

「ありがとう。」

声に出さずに呟いてみる。
今、お前の温もりを感じられる全てに、感謝をこめて…。


~fin

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多岐美影

Author:多岐美影
何とか自分の手が届く範囲にてミラージュの世界を満喫したいと画策中。

生息地:江の島と箱根の間(小田原寄り)
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ミラ歴:'94春~'96冬=ミラ第2部だけはリアルタイムその後13年のブランクを経て、2009年春再燃
前科:某ボーカリストの追っかけもどき約20年

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